2016年01月02日

見捨てられたウクライナ その1


ウクライナがロシア国債に対してデフォルトしたらしい。
上記は12月19日付,年末の31日に確定だと(参照)。

しかし,そのことに目を向ける人々は以前に比べると
世界規模で激減していると思う。

ウクライナ騒動は,国際政治を概観するうえで
私にはわかりやすい事例だ。
騒動も終わったと見てよいこの機会に私の感想を投稿する。

結論を言えば,ウクライナ紛争の中心は
クリミア半島の帰属問題にある。
もっといえば,クリミアあるに露西亜の軍港をめぐる争いである。

ウクライナ.jpg


歴史的にクリミアはロシア

ロシア人には,クリミアは歴史的にロシアのもの,という想いがあるという。

  クリミアの歴史
  13c クリミア,モンゴル帝国に征服される
  15c クリミア・ハン国がオスマン帝国の属国となる
  1783年 クリミア・ハン国がロシア帝国に併合される
        クリミア戦争、第一次大戦の混乱を経て
  1917年 クリミアはソ連の一部となる

ロシアは楽してクリミアを自分のものにしたわけではないだろうし,
その後何度も他国に軍事占領されては取り返している。
クリミアは血の歴史をくぐり抜けてきたわけで,
ロシア人のクリミアへの想いは深いと言われている。


ボタンのかけ違い

そのクリミア,1954年にロシア・ソ連からウクライナ・ソ連に移管される。
ウクライナは当時ソ連領で,単なる行政上の問題に過ぎなかったし,
ソ連の崩壊など想像もできなかった。
ソ連はイケイケドンドンの国で,
アメリカが山口組ならソ連は住吉会ぐらいの存在感があったのだ。

実際,1962年のキューバ危機では,第3次大戦が起きるところだった。
核戦争だ。
1980年ごろでさえ,欧州とソ連は短距離核ミサイルを並べて向き合い,
核戦争前夜と言われていたものだ。

ところが,1991年に雪崩のようにソ連崩壊。
ウクライナが独立するときに,クリミアも込みということになってしまった。
混乱していたとはいえ,ロシアにとっては痛恨の事態であった。


プーチンの登場ーアメリカとの死闘

ソ連崩壊後,ロシアは転がる石のように崩壊していった。
それを立て直したのがプーチンである。

russiaGDP.PNG

上記はロシアのGDPの推移。
90年代の転落ぶりと,プーチン政権の右肩あがりの対比がすごい。
原油値上がりに救われたとはいえ,プーチンがロシアで絶大な人気を誇る
その理由の一端がわかる。

これだけの劇的な転換をプロデュースしたプーチンの手腕,
ただの豪腕ではない。
プーチンの前では白熊も正座するほどの豪腕である。

権力を確立する途上で,豪腕プーチンは
ロシアの石油マフィアを追い出すことに成功した。

資源関係の業界は世界的に非常に荒っぽい。
ましてや,ロシアだ。
相手もちっぽけな存在ではない。
ロシアの主力産業である石油でのしてきた相手だ。
プーチンがKGB出身だとしても、簡単なことだったとは思えない。

プーチンは何度も暗殺されかけているらしいが,
上記の件は原因の一つである。

この追い出した石油マフィア,
利権を石油メジャーに売ろうとしていた。
背後にはアメリカがいる。
プーチンはアメリカの一極集中を激しく批判していたこともあり,
アメリカ対プーチンの死闘が始まる。


バラ革命とウクライナ危機

2004年にウクライナでオレンジ革命勃発。
ロシア側のヤヌコヴィッチとEU加盟派のユシチェンコの一騎打ちの末,
親西側政権が誕生した。CIAが関与したとされる。

しかし,ユシチェンコ政権は内部対立が相次ぎ
(有名なのは,綺麗過ぎる政治家ティモシェンコ),
EU側からも思ったような援助が受けられなく,民意が離反。

ティモシェンコ.jpg
ティモシェンコ。裏の顔はかなりえぐいようだ。

2010年,今度はロシア派のヤヌコヴィッチが大統領に就任。
2014年2月EU加盟をめぐって野党が反発,全国規模の騒乱となった。
そこへロシア軍を背景にプーチンが介入。
3月21日,クリミアはロシアへの編入条約を批准した。
(但し,国際社会はこれを認めていない。)
欧米はこれに反発,ロシアに経済制裁を続行中である。

クリミア編入

表面上,欧米対ロシアは,民主主義対プーチン独裁になぞらえる。
しかし,そうした欧米の主張は錦の旗,建前である(大事なことではあるが)。
実際は,すっきりしない国益の争いだ。

国益は主に経済的利益と安全保障から眺めることができる。
ウクライナ問題において,
欧米・ロシアともに,クリミアの軍港に関心があるだけで,
ウクライナはいらない。経済的にデメリットばかりだからだ。
だから,クリミア以外のウクライナについてはグダグダになっている。


クリミアの軍事的意義 セヴァストポリ軍港

セヴァストポリ軍港は露西亜の黒海艦隊の本拠地である。
『戦艦ポチョムキン』の舞台となったのは,この軍港の周辺である。

ソ連崩壊後,クリミアはウクライナに編入されたが,
戦略的価値から,セヴァストポリ軍港をウクライナから租借している。
露西亜はこの軍港から地中海に出る。
地中海にはシリアの露西亜基地がある。
この軍港を失うと,シリアの露西亜基地は孤立する。
地中海への影響力も大きく損なわれる。

さらに,軍港の周囲にある旧ソ連領の国々への
軍事的影響力も低下する。

欧米,特にアメリカが強い関心を示したのは,
上記のような状況がある。
ロシアをクリミアから追い出したいわけだ。

つまり,
  侵略・攻撃側は欧米,特にアメリカ
  防衛側がロシア
そういう構図のほうが正しいと思う。

ウクライナ02.jpg


ウクライナの経済的利益

クリミアの軍事的利益に対して,
ウクライナには経済的な魅力がない。

ウクライナの周辺国家には石油・天然ガスの産地が広がっている。
しかし,ウクライナには有力な資源がない。
鉄鉱石がとれる程度である。

農業国であり,工業は盛んではない。
ウクライナは貧乏で,大消費地もそばにないから,
外国から工場を引っ張ってこれない。
シンガポールのような交通の要所でもない。

一言でいえば,ウクライナは立地が悪い。
経済的なポテンシャルの低い場所だ。
当然のように,ソ連崩壊後,GDPは低迷している。

ウクライナGDP.jpg

ソ連時代はまがりなりにも,食・医・教・職がなんとかなった。
ソ連から独立したいま,それらの補償がほぼ失われている。

こういう国を援助する,というような場合,大変難しいだろうと思う。
北朝鮮であれば,パンのみでも満足してもらえるかもしれない。
しかし,ウクライナはパンだけでは駄目だ。
工場を建て,保険を充実させ,年金を与える。
そうして初めてウクライナの人たちは納得する。

つまり,ウクライナにかかわるには,
北朝鮮以上にお金がかかる。
経済的に疲弊しているロシアや欧州はもとより,
アメリカでさえ,そんな余裕はない。

ウクライナ騒動において,経済的利益がないばかりか,
下手すると毟りとられて援助側が疲弊する。
できれば,経済的にウクライナに関わりたくない。
欧米露に共通する本音だろうと思う。


欧州

欧州にはプーチン嫌いが多いといわれている。
しかし,エネルギーの多くの部分を露西亜の天然ガスに依存する。
EUは天然ガスの3割をロシアに依存するといわれている。

また,ウクライナ騒動がヨーロッパにまで飛び火しても困る。
ウクライナの経済状態も相俟って,
欧州はウクライナ騒動に本腰を入れられない。

パイプライン.jpg
画像はこちらのサイトから


アメリカ

アメリカはウクライナに強い利害関係がない。
アメリカを動かしたのは,
プーチン嫌いという強い感情ゆえではないか。

先述したように,
前プーチン時代,権力を確立するうえで,
ロシアの石油マフィアを追い出したことがある。
マフィアの背後にいたのが西側の石油メジャーであった。

さらに,プーチンはアメリカ一極に異を唱え,
ドルの追い落としを図っている。

アメリカはプーチンに対抗して,
旧ソ連の国々の色の革命を裏で画策したといわれている。

color.jpg

ウクライナ紛争は経済的利益がまことに薄いばかりか,
下手に勝利してしまうと,戦後処理が面倒だ。
アメリカはウクライナの再建にはタッチしたくない。

そこで,『独裁者プーチン打倒』というプロパガンダや
色革命のように,親西側政権を樹立させる,
ということが西側の戦略の中心となる。

もし,オバマがロシアとの徹底抗戦に出たら。
ロシアは死に物狂いで抵抗するだろう。
戦線は拡大してヨーロッパまで巻き込みかねない。
戦費も膨大,当然戦死者も多くなる。
勝ったとしても,ウクライナの戦後処理も面倒。
オバマも口は勇ましくとも,あくまで黒子に徹するしかなかったのだ。

もっとも,上記事情をさしおいても,
オバマには強い指導力はないと,個人的に思う。


日本

安部政権は親プーチンである。
安部政権発足時から,強い関心を露西亜に向けていた。
実際,プーチンは安部総理と何度も会談を重ねている。
背景には,中国問題とエネルギー,領土問題がある。

ロシアからしても,シベリア開発,対中国へのカウンター,
ウクライナ紛争に起因する経済制裁の突破口として,
日本は重要な相手である。


その2に続く



posted by DEBUO at 22:32 | 世界の政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする